マティスの『青い窓』
2020年 05月 20日
私達が現在置かれている状況は、今までにはなかったことです。様々な規制の中で、今まで当たり前であった「自由」が制限されています。それでも私達の想像する力は自由であると、アートは教えてくれます。
Pejacというスペイン人のアーティストがいます。彼はストリートアーティストなのですが、外出を規制されている現在、そのアート活動を外で行えません。しかし、限られた状況の中でも表現することをやめられないのが芸術家の魂。Pejacは自分のアトリエの窓ガラスに、直接アクリル・ペインティングをしました。
黒一色でガスマスクをしている無数の人物を、細かく窓ガラスの表面に描きました。窓ガラスに描かれた無数の人物達は皆、今現在の私たちが置かれている状況のように、ソーシャルディスタンスを空けています。
このペインティングは、窓辺に青空が映る景色にガラスの絵が自然と馴染んで見え、まるで窓の外に、無数の人々の雨が実際に降っているように見えます。そしてその作品は、外出規制の中、家に閉じこもっている一般の人々にも反響を呼び、それに影響を受けた人たちが、家の窓ガラスを利用したアートを考えてSNS上に公開したりしています。
ところで『窓』というのは絵画にも多く描かれるモチーフでもあります。
フォービズムの代表的なフランス人画家、アンリ・マティスは窓のある風景をいくつも描いています。
1913年に描かれたマティスの『青い窓』という幻想的な作品をご存知でしょうか。キャンバス全体を占める青色の色彩。外に見える楕円形の白い丸は月のように見えます。室内には香水の瓶や花瓶が置かれていて、女性の部屋からの眺めでしょうか。
月夜の窓辺から見える光景と室内が描かれているようですが、青い色彩によって、室内と室外の境界線がまるで溶けて、一体になってしまったような不思議な錯覚を鑑賞者に起こします。
この『青い窓』はニューヨークの近代美術館に所蔵されている作品ですが、最近この美術館のスタッフが『青い窓』についてウェブ上で短いコメントを載せています。スタッフは最近この作品に、新しい解釈を感じるようになったようです。この作品は、マティスがわざと空間や距離を混乱させるように描いているため、何が部屋の中と外にあるのか、はっきりと言及できないところに見とれてしまうとのこと。そして、空にある楕円形の丸は月かもしれないが、雲かもしれない。もしくは室内の光の反射を描いたのかもしれないと。
ニューヨーク近代美術館のあるスタッフは、人と人が隔離された今現在、私たちが窓から見える景色を、最大限に活用しようとするこの時に、『青い窓』の作品が、私たちの目の前の無限の眺望で、心を落ち着かせる熟考、瞑想ともなるということに気づかされたと記しています。
情報過多なネットの文章からしばし離れて、窓の外の景色を見つめるように、一枚の絵画をじっくり眺めるのも良いですね。