小野竹喬の描いた『奥の細道』
2020年 01月 30日
「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。」
『奥の細道』より
これは、元禄文化期に活躍した、俳人松尾芭蕉の代表的な作品として、国内外ともに広く知られている紀行文の序文です。
松尾芭蕉が旅先で詠んだ俳句は時代を超えて人々に愛されています。
松尾芭蕉の俳句、その言葉と、晩年旅に身を置いた芭蕉の生き方には何か日本人の琴線に触れるものがあるのでしょう、幾人かの近代の画家達は芭蕉の作品にインスピレーションを受けた作品を残しています。
日本画家の小野竹喬は松尾芭蕉の『奥の細道』に影響を受け、「奥の細道句抄絵」を手がけました。小野竹喬は86歳の頃に、『奥の細道』の土地を実際に訪れて、連作を制作しました。風景画家である竹喬は、芭蕉が常に自然を愛し、絶えず旅の心を抱いていた、その人生観に心を惹かれたと述べています。そして竹喬は
「取材については、事情の許す限り現場に出かけていって、芭蕉の句意を汲みながら、現在の私の感覚の上に創造しようとした。」
と語っています。竹喬はその制作に晩年、三年もの月日を費やしました。
『奥の細道』には読者それぞれの感じ方があり、それは千差万別でしょう。画家の小野竹喬はそれを自分なりに絵画化しようと試みました。それはとても大きな挑戦であったと思うのですが、竹喬の作品には力みなど感じられず、そこには優しくおだやかな眼差しを通して描かれた、自然の風景があるだけです。
