上村松園(絵に込められた思い)後編
2019年 11月 28日
上村松園は女性であり、女性の視点から美人画を描き続けました。彼女の描いた美人には、表層的な美しさだけではなく、内から溢れる美しさまでもが感じられるような気がします。それは一体何なのでしょうか。上村松園はどのような思いを込めて、美人画を描いたのでしょう。
上村松園の代表作、『序の舞』は広く知られている美人画の作品です。 鮮やかな朱色の着物に身を包んだ女性が、舞を踊る姿を描いたこの作品には、松園が理想とする女性像が表現されています。よく松園が描いた女性は「凛としている」と形容されますが、まさにそれは松園が目指していた理想の美の形の一つでした。上村松園は単にきれいな女性を描くのではなく、女性の美に対する理想やあこがれを描き出したいと語っていました。
『序の舞』の女性が扇を持つ手と、その扇の先を真っ直ぐに見つめる視線、序の舞の緊張感の中に、あらゆる美が凝縮されているようです。この『序の舞』は、上村松園という唯一無二の女性だからこそ描けた最高傑作なのではないでしょうか。『序の舞』によって、松園は世阿弥の説く「秘すれば花なり」の境地に到達したのかもしれません。
『序の舞』について松園は次のように語っています。
「何ものにも犯されない、女性の内に潜む強い意志をこの絵に表現したかった。一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵こそ、私の念願するものなのです」