福田平八郎の『雨』
2019年 05月 31日
ここ最近、日本列島は異例の猛暑に見舞われました。季節外れの猛暑には辟易してしまいますね。
そうこうしているうちに、これから梅雨の時期がやってきます。合理的な理由から、梅雨の時期を嘆く大人がいる一方で、「あめふり」の童謡の歌詞にあるように、小さな子ども達が嬉しそうに雨の降る中を、レインブーツや小さな傘を持って、楽しそうに歩く姿が見られるのも雨の日の一興と言えるでしょうか。
さてここで、絵心をお持ちの皆様が、「雨」をテーマとして一枚の絵を描くとすれば、どのような雨の情景を描こうと思われるでしょうか。
日本画家の福田平八郎は一部分の瓦屋根を描いて、それに『雨』というタイトルをつけました。その絵がどうして『雨』なのか、答えはこの作品を一目鑑賞すれば自ずとわかります。
福田平八郎が描いた瓦屋根をよく見ると、ポツポツと降ってきた雨の水滴の跡が瓦屋根に滲んでいる様子が描かれているのです。雨の日の空気中に漂う、まるで雨水の匂いがこちらまで感じられるような味のある作品です。
そしてこの作品、屋根全体ではなく、屋根瓦の一部分を描くという独特の構図の取り方が、モダンなデザインのようにも、もしくは、どこか抽象画のようにも見えます。これが現代ではなく、昭和20年頃に描かれた作品なのですから感服します。
作家は特別な雨の情景を描いた訳ではなく、日常に何気なく見えた、雨の景色の一齣を自分のフィルターを通して絵筆で表現しました。
福田平八郎は水をテーマとした作品を他にも残しています。じめじめと暑い日に、目からも涼を感じたいと思われる方は、清涼感のある福田平八郎の作品をご覧になってみてはいかがでしょうか。