長谷川潔の黒
2018年 10月 29日
街を歩く人々の服装に黒色のコーディネートが増えるようになると、季節も移ろい、だんだんと寒い季節になってきたのだなと感じます。
黒色とはすべての色が包括されている宇宙のような色。そして黒は派手な色彩にも負けず劣らずの強い自己主張をする色でもあります。
明治に生まれ、大正、昭和期に活躍した黒の版画家と言われる長谷川潔は黒の手法を極め、黒色を基調、メインカラーとした作品を数多く手がけました。
その作品は静謐で凛然としています。まるで時が静止してしまったかのような、独特の世界観へと鑑賞者を引き込む強さがあるのは、その作品が持つ独特の黒い色も関係しているように思われます。
長谷川潔の人生について少し言及すると、裕福な家庭に生まれるものの、10代の時に兄弟と父親を亡くし、中学を卒業する頃に母親を失います。好きだった美術の道は、洋画研究所に入り黒田清輝や岡田三郎助、藤島武二から師事を受けました。その後大学には進まず、フランスへ渡ります。版画技術の習得に励み、作品を出品したり個展を開くことで高い評価を得ます。しかしその後、第二次世界大戦の影響で苦境に立たされます。それでも日本の地を二度と踏むことはなく、戦後に創作をフランスで再開し、数々の作品を発表してゆき、パリで静かに息を引き取りました。
長谷川潔がその人生において、幼少期からどれほど精神的に深い絶望や喪失感を味わい、異国において、幾多の苦難を乗り越えてきたのか、ということに思いを馳せると、長谷川潔の生み出した黒い色は、その人生から抽出したエッセンスのような、深く重い色のようにも思われます。
「黒には7色の色がある」 長谷川潔