斉藤真一が描いた瞽女
2018年 02月 28日
コメディ(喜劇)とトラジェディー(悲劇)。どちらも私達の世の中を取り巻くもの。出来れば誰でも悲しいもの、暗いものよりは明るいもの、楽しいものを見たいと思うのではないでしょうか。現実の世界は決して楽しいことばかりではない、それならばせめて、フィクションの世界では楽しいものを見て笑って心をほがらかにしたいと思う人々の欲求が、コメディの作品を産み出すのかもしれません。
その一方で、光があれば影ができるように、トラジェディーの作品を産み出す人もいます。
斉藤真一という作家は、私達人間の持つ哀しみ、主に女性のトラジェディーの部分に焦点をあてた作品を残しています。
三味線を弾き唄いながら、旅芸人として巡業していた「瞽女」と呼ばれる女性の盲人芸能者に惹かれた斉藤真一は、約10年の歳月をかけて瞽女を取材しました。何故、斉藤真一は不遇な女性達を描いたのでしょうか。様々な想像が出来ますが、斉藤真一の作品を見ると、彼がどのような思いで絵筆を握り、瞽女を描いたのかがこちらにまで伝わって来るようです。
斉藤真一が描いた瞽女の姿には、好奇の眼差しといったものは微塵も感じられません。
この作家が描いた瞽女は、純粋な哀歌を、まるで耳の代わりに目で鑑賞しているような気持ちになります。
斉藤真一は燃えるような「赫」い色で夕日や瞽女達の着物を描きました。その独特の赫い色が、悲しくも温かい、何ともいえない郷愁と叙情性を作品の中に漂わせています。
人生のはかなくも、その中で強く脈打つ生身の人間の、生きる姿を見せてくれる斉藤真一の作品は、トラジェディーでありながら強い輝きを放ち鑑賞者を魅了するのです。