シャガールの挿絵(白黒から多色まで)
2016年 05月 19日
シャガールの作品にはよく人物や動物などが宙に浮かんでいる姿が見られますが、それは別段不自然には見えません。軽やかに自由自在に画面の中を浮遊している生物達は、それを見ている私達に不思議な感覚すら与えてくれます。それはシャガールの絵画がもつ不思議な魅力のひとつなのかもしれません。
ところで一般的にシャガールといえば華やかな色調の作品が多数見られますが、彼が手がけた最初の挿絵本のための版画は単色でした。シャガールはパリの画商から挿絵本制作の依頼を受けましたが、画商から提案された本ではなくシャガール本人が選んだ本の挿絵を手がけました。その本はシャガールと同じロシア出身の作家、ゴーゴリの『死せる魂』でした。ロシア文学を代表するその本の内容は決して明るいものではなく、それにあわせて制作されたシャガールの挿絵は銅版画で単色使いの暗い印象です。しかしながら、それがただ作品に沿うだけの単なる挿絵にとどまっていないのがシャガールの技。細やかで変化に富んだ場面描写や登場人物の性格、人間性のようなものがシンプルかつ鋭くモノトーンで表現されていて、見るものを物語の世界へぐいぐいと引き込んでくる吸引力があります。
同じようにシャガールが挿絵制作をしたものに『ダフニスとクロエ』という古代ギリシアで書かれた物語があります。少年と少女に芽生えた純真な恋が軸となっているこの物語に「愛の画家」と呼ばれるシャガールはカラー・リトグラフで色彩豊かな詩情あふれる唯一無二の挿絵を手がけました。尚、シャガールの『ダフニスとクロエ』は本の中だけではなく、パリ・オペラ座の天井画でも拝見する事が出来ます。ただ、こちらではモチーフのひとつとして『ダフニスとクロエ』が描かれています。この天井画は「夢の花束」というタイトルがつけられていて、まさに夢のようなシャガールの織りなす鮮やかな色彩の世界を鑑賞することができます。
シャガールは『死せる魂』のような白黒の世界から『ダフニスとクロエ』のような多色の世界まで幅広い表現力で多くの人々の心をとらえてきました。その豊かな表現力は、祖国を離れ激動の20世紀を常に愛を持って芸術とともに生き抜いた、シャガールの人間性の奥深さから泉のように湧き出たもののように思うのです。
私を幻想的と呼ばないでほしい。
反対に私はレアリストなのだ。
私は大地を愛している。 マルク・シャガール

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